『悲しい海のアクシデントを防ぐためにVol.2』

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かつてハワイでライフガードになるための講習を受けた時に、BB・ボディーサーフィンの人気ポイントであるイーストサイドのサンディービーチで実習が行われました。ここは、インサイドで勢いよく掘れて巻く波が特徴なので、BBなどにはとてもエキサイティングで楽しい場所である半面、バランスを崩してワイプアウトをすると、頭をボトムにヒットさせてネックダメージ(頸椎損傷)となる事故が多発する危険なポイントでもあるのです。(添付写真1参照)
危険な要素を海浜利用者に知らせるハワイの看板
危険な要素を海浜利用者に知らせるハワイの看板

我々は実際の事故を想定して、掘れて激しい波の中で、ハードなレスキュートレーニングを行いましたが、かなり苦労したのを今でも覚えています。海のみならずプールなどで浮いているペーシェント(傷病者)を発見した時には、頸椎損傷についても疑い、確保の仕方がまったく異なります。もしも早く人工呼吸をしたいために、安易に頭部後屈させて頸椎を反らせて呼吸の確認をしてしまうと、ネックダメージを受けているペーシェントの損傷をさらに悪化させてしまい、致命傷を与えてしまうからです。ネックダメージを受けたペーシェントを安定確保する手技はありますが、ライフガードらはバックボード(全脊椎固定器材、※添付写真2参照)にヘッドイモビライザー(頭部固定具)またはネックカラー(頸椎固定カラー、※添付写真3参照)を使って、水上でペーシェントの頭部と首は厳重に固定しつつ、さらに全身についてもベルトで固定します。

[写真上/添付写真2]バックボードを使った運搬法 [写真下/添付写真3]ネックカラーの取り付け方
[写真上/添付写真2]バックボードを使った運搬法 [写真下/添付写真3]ネックカラーの取り付け方

そのうえでビーチに引き上げた後、マスククリアー(口内清掃)、CPR(心肺蘇生法)、AED(除細動器※)を施すことになります。

※4月から、千葉・湘南・伊豆の波伝説チェック車両全6台に、AEDが配備され、ドライバーを含む全スタッフが普通救命講習会を受講しています。

こういうコラムを書くと、海は怖い所と思う方も多いとは思いますが、陸上のスポーツやレジャーでもネックダメージはよく起きることです。特に、首に激しいストレスがかかるスポーツの、柔道、レスリング、アメフト、ラグビーなどでは、初心者のうちから徹底的に首を支える筋肉を鍛えるとともに、アクシデントを防ぐための反則行為を定めたりして、少しでも悲しい事故を減らす努力をしています。

サーフィンやマリンスポーツでネックダメージが発生した場合に、陸上と異なることは、水上であるがゆえに呼吸の確保ができないシーンに見舞われる可能性があることです。また、体育館やラグビー場には、バックボードやAEDが配置されていることは当然ですが、日本の海には夏季の一部の海水浴場を除くと、それらの配置やそれらの器材を使える人がいることはかなり限定的です。

一方、ハワイ、カルフォルニア、フロリダ、5大湖などにおいては、それらを配備したライフガード(公務員)がいますし(※添付の写真4はマウイ島の最新式ライフガードステーション)、オーストラリアでは平日はライフガード、土日はライフセーバー(メジャーな場所はライフガードも加わる)が、その役目を担っています。

マウイ島の最新式ライフガードステーション
マウイ島の最新式ライフガードステーション

また、3年前に訪れた水温の低いヨーロッパのポルトガルでも、メジャーなサーフポイントや海水浴場には、ライフガードが配置されていました。昨今、年間を通してマリンスポーツが盛んになった日本においても、マリンスポーツの愛好者を見守るライフガードの創設が必要であることは言うまでもありません。マリンスポーツに精通したWatermanのライフガードの配置は、日本のライフセービングとサーフィン界に関わった者の一人として、微力ではあるものの生涯をかけたミッションであると考えています。つづく。

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