(気象庁HPより)
テレビの天気予報などで、「きょうは大気の状態が不安定となっています」という表現を耳にすることが多いかと思います。しかし、皆さん、この「大気の状態が不安定」とはどういうことか説明できますか? よく耳にするものの、何だかわからないという方が多いかと思います。「大気の安定度」を説明させていただきます。
ブリタニカ国際大百科事典では、大気の安定度とは「力学的に平衡にある大気が,その状態を少し乱されたとき,もとに復帰しようとする傾向の度合い。静力学的安定度と動力学的安定度とがある。小さな空気塊をかりに上のほうに少し動かしたと考える場合,その小気塊が,そのままその動かした方向に運動を続けてしまうような大気状態を不安定大気,小気塊がもとの位置に戻ろうとする大気の状態を安定大気と呼び,その度合いを静力学的安定という。」となっています。気象予報において多くの場合は、大気の安定度といえば、「静的安定度、特に対流不安定」のことになります。
と書きましたが、何のことだかサッパリわからないと思います。もっと簡単に説明します。
天気予報における大気の安定度とは、空気の上昇が起きやすいか、起きづらいか、となります。上昇が起きやすい場合は「大気の状態が不安定」、起きづらい場合は「大気の状態が安定」となります。
では、なぜ「空気の上昇」について注目するかです。
中学校の理科の授業を思い出してください。
空気には水蒸気が含まれています。この空気が含むことができる水蒸気の量は温度によって決まっています。気温が高いほど多くの水蒸気を含むことができ、低いほど少しの水蒸気しか含むことができません。(この水蒸気の量を飽和水蒸気量と言います。) 空気が何らかの理由によって冷やされて一定の温度以下になると、含みきれなくなった水蒸気が水滴となります。(氷水を入れたコップの周りに水滴が付くのはこのため)
では、どのような時に、空気塊は温度が下がるのでしょう。
まずは、空気塊が冷たいものに触れた時です。海で霧が発生する原因の一つがこれにあたります。暖かくて湿った空気が冷たい海上に流れ込むと、冷えて水蒸気が水滴となり、霧が発生します。
そして、空気塊が上昇した時にも温度が下がります。空気の重さによって気圧という力が発生します。気圧は空気の量によって決まります。上空に行くほど空気の量が減るために気圧が低くなります。(地表の気圧は約1,000hPaなのに対し、1,500m付近では850hPa、5,500m付近では500hPa、9,000m付近では300hPaとなります。エベレストの山頂付近の空気の濃度は地表の約1/3ということになります。) 地表付近の空気塊が何らかの原因によって上昇します。すると、周囲の空気から受ける力=気圧が下がることにより、膨張します。この膨張して大きく際に、空気塊が持つ熱エネルギーが使われ、空気塊は温度を下げてしまいます。
このように上昇によって空気塊の温度が下がると、水蒸気を含みきれなくなり水滴=雲が発生します。雲が発達すると降水などの気象現象が起きます。
つまり、上昇流のある所では、雲が発生して雨や雪となり、落雷、降雹、竜巻などの気象現象が発生することもある、ということになります。
真っ黒い雲が近づいてきた
雷の音が聞こえてきた
急に冷たい風が吹いてきた
(気象庁HPより)
これらはすべて雷の前兆です。
では、どのような時に上昇流が発生するのか?
まず一つ目は、山などによる強制上昇です。山にぶつかった風(=空気の流れ)は上へと向かっていきます。このため、山間部(特に山頂付近)は雲に覆われることが多くなっています。
二つ目は前線の接近。寒冷前線付近では、密度の大きい冷たい空気が、密度の小さい暖かい空気の下に潜り込むことにより、暖かい空気が上昇していきます。また、温暖前線付近では、暖かい空気が冷たい空気の上と進んでいきます。このため、前線付近では天気を崩すことが多くなっています。
最後に、「大気の状態が不安定」なためです。先ほどサラッと書きましたが、暖かい空気は密度(単位体積あたりの重さ)が小さく、冷たい空気は密度が大きくなっています。ざっくりと表現すると、暖かい空気は軽く、冷たい空気は重くなっています。
ここで「大気の安定度」となります。
下層(地表付近)には冷たい空気(重い空気)、上層(上空)に暖かい空気(軽い空気)があるときは、上昇流が発生しづらくなります。これが、「大気が安定」した状態です。
一方、下層(地表付近)には暖かい空気(軽い空気)、上層(上空)に冷たい空気(重い空気)があるときはどうでしょう? 上層の冷たい空気は下に向かって落ちていき、入れ替わるように下層の暖かい空気は上空に向かって上昇していきます。これが「大気の状態が不安定」ということになります。
テレビの天気予報で、「上空に真冬並の寒気が入り、大気の状態が不安定になっています」「下層では、南海上の高気圧から暖かくて湿った空気が流れ込み、大気の状態が不安定となっています」とはこのことなのです。
海快晴では、この大気の安定度を知る一つの目安として上空500hPa(5,500m付近)の温度を見ることができるようになっています。
https://www.umikaisei.jp/weather/weatherforecast/cold/
上空5,500m付近において寒気が入っている場合は大気の状態が不安定となり、夏期であれば落雷・突風や短時間強雨、冬期であれば同じく落雷・突風や雪・大雪の発生の可能性が高くなります。
高層の温度図を上手に活用し、海の事故を未然に防いでいただければと思います。
文責 株式会社サーフレジェンド 気象予報士・防災士 唐澤敏哉