☆加藤のコラム【再掲】『津波はオームの襲来!? Vol.3』

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  サーファーは、沖に出る途中で波を食らいそうなときには、サーフボードに体重をかけて波の下に沈めて、イルカのようにやり過ごす“ドルフィンスルー”というテクニックを使います。おそらく世界広しと言えども、津波にドルフィンスルーをしたという話を私は聞いたことがありませんが、もし実行しても、波浪のように波の背後に底があるわけではないので、次々と押し寄せる波長が何kmと続く津波の膨大な水の量とパワーに呑みこまれて、海面の頂上に出る事はなく、海中で息絶えてしまうはずです。

  日ごろ、波高についての見識があるサーファーやマリンスポーツの愛好者であることが災いして、津波の波の高さを波浪の高さと同一視して考えがちですが、以上のとおり、まったく次元の違う危険性を秘めているので、この違いは正しく認識しておいてください。   また、津波は波浪と違う、もう一つの危険な要因があります。それは到達スピードです。波浪は目で追えるぐらいのスピードで伝わりますが、津波の到達スピードは水深5000m以上の深海では時速700km(航空機並)、水深500mで時速250km、水深100mで100km、汀付近でも時速35kmの速さです。時速35kmとは、大体オリンピックの陸上競技100m走の選手並だそうですが、人間はそのスピードで何キロ、何十キロも走り続けられません。つまり、海で津波の危険を察知した時には後の祭り、どうすることもできずに飲み込まれるだけなのです。海岸付近の街には、足の不自由なご老人やヨチヨチ歩きの幼児も暮らしています。だからこそ、早めに避難することがとても重要になるのです。

  今後、気象庁の津波の到達時刻と高さ予想がより正確になることを期待しますが、極端な話、今回のように津波の到達する高さが外れても、津波警報や避難指示が出されずに津波が到達して甚大な被害が発生することを考えれば、まだ良いと思います。つづく。

気象庁ホームページより
気象庁ホームページより
  今回気象庁が予想した3mを超えるような大津波は到達しませんでした。しかし、前回チリから到達した6mの大津波は、今から約50年前の事です。津波については絶対的なデータの蓄積ができていないのが実情なので、日々データが集まる波浪予想とは、予報技術が劣っているのも必然なのです。気象庁から予報業務許可を受けている会社だから申し上げるのではなく、今回の津波で青森県陸前高田市小友町の両替漁港では、1m90cmもの津波の最大値を記録していることを考えると、気象庁が警報を早めに発令したために数多くの人命を救ったとも言えます。   また、警報の解除が遅いのではとの批判も分からないでもなく、私自身当日午後にJR東海道線と横須賀線が運転見合わせとなって帰宅することに大変苦労した身ですが、太平洋を一つのお風呂と考えれば、波が立てば反対の壁に当たり、今度は跳ね返ってきます。中には違う方向から来た二つの波が合成されて大波(風波で言う三角波)になります。ゆえに、津波は第一波よりも第二波、第三波、第四波の方が、波が合成されて波高が高くなることがあります。また、太平洋という広大な海の中で津波が跳ね返えりつつも落ち着くまでには相当な時間がかかってしまい、結果的に津波警報の解除は遅れざるを得ないのです。

  今回のチリ大地震による津波について、速やかに政府のみならず関係機関、関係団体、そして各自治体が、反省すべきところは反省し、もっとも重要なのは津波に関する国民・住民への理解・周知不足が認められることは否めません。なぜ津波が危険なのかを、もう一度分かりやすく、メディアから国民に、さらに学校教育、町内会、マリンスポーツ・レジャーの会合等で繰り返し説明し、毎年2月28日には日本全国で津波訓練を実施すべきとも考えます。真冬ではありますが、阪神大震災は1月17日に発生し、災害がいつも訓練しやすい快適な季節に起きるとは限りません。

  今回人的な被害はありませんでしたが、もしも次に倍の高さの津波が到達しても、事前に高台への避難が円滑に進められ、マリンスポーツのリーダーやベテランらが避難誘導に協力し、引き続き人災ゼロが続くことを願って止みません。(了)

2010年3月12日
株式会社 サーフレジェンド
代表取締役 加藤道夫

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