「第2回 一宮の海を考える集い」について(報告)

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「第2回 一宮の海を考える集い」
日時:平成22年4月10日 午後1時30分〜4時30分
於:一宮町中央公民館 大会議場
講師:宇田高明(日本大学理工学部海洋建築工学科 客員教授)
清野聡子(九州大学大学院工学研究員環境都市部門 准教授)
参加者:一宮町長を含めた町政数名、千葉県庁職員数名、参加者の合計は約200名(内サーファーが約7割、海の近くに住む住民らが3割)

町長のあいさつに始まり、宇田高明氏・清野聡子さんの順にパネルを用いた一宮〜太東海岸を主に九十九里海岸についての説明があり、その後に質疑応答形式のもとディスカッションが行われた。

飯岡〜太東まで約60kmある九十九里海岸は、元来は砂浜があったわけではなく、約6000年前の縄文期以降に「北端の屏風ヶ浦」と「南端の太東崎」にある海食崖からの侵食(年間約75cm)が進んだことにより砂が供給され、砂浜が形成されたものと考えられている。

1947年には、一宮エリアは奥行500〜600mの砂浜があった。
1970年代になり、供給元である屏風ヶ浦と太東崎の崖上の安全確保のため消波提を設置し2つの崖の侵食を99%止めたため、砂の供給がほぼなくなる。そして、防砂林としての松の木が砂浜の80%を占めるようになる。
また、漁港防波堤建設や、水溶性ガス採掘等による地盤沈下、夷隅川からの土砂供給の減少など、様々な要因により砂の供給と流出のバランスが崩れ、徐々に侵食が進んだ。(逆に漁港には砂が堆積)

その後、一宮海岸では海岸浸食を抑えるためヘッドランド工法が採用された。現在も流れた砂を漁港から運ぶ作業はしているものの、砂自体は増えず、一宮〜太東海岸だけでも年間5〜6万立方メートルの砂がなくなっていく状況。

以前から千葉の各地域でも公聴会を開いていたものの、参加者も少なくあまり意見が出なかった。
市のほうからも砂を増やす要望は意外に少なかった。(一宮はあったが)
九十九里では砂にお金をかけてまで事業を行うほどの気持ちは少ないのが現状。(予算内となると、福祉等の充実を重視)

今、南九十九里は大手術の最中であり、死に絶える前の状況。つまり、末期ガンと言える。
1990年代に構造物が入り、2000年以降は侵食問題がひどくなったものの、関心を示したのは一部の方のみで、全体的には少なかった。
予算、つまりは限られたお金を何に使うかは地域で決まる。
残念ながら、昔の九十九里に戻すことは不可能であり、これからの決断は、希望的なものは厳しいのが現状。ただし、悪くなった原因を示すカルテはたくさんある。

この現実を踏まえて、深く考え、議論を重ねなければならない。


 
写真1
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主な質疑応答
Q:沖に砂が付いていることはないの?
A:何の砂があるかが問題。軽い砂ではまた流れてしまうし、泥状のものであると思われる。

Q:なぜ、ジャカゴを?
A:行政上の問題。後ろに守るべきものがない場合は、安いもので作るように指令が出る仕組み。今覆っている鉄柵が切れて石が出てしまっているのは行政もわかっている。それを放置するのは良くないが、どうすればいいか分からない状況。ヘッドランドと同様、課題が残されたまま進んできた。

Q:地盤沈下とは?
A:水溶性ガス採掘等によるものであると思われるが、農・漁以外のこの地域の産物であるのも事実。茂原市内では最大60cm、一宮海岸周辺でも20〜30cmの地盤沈下が見られる。ただし、砂の減少とは、因果関係はない模様。

Q:夷隅から砂をもってくることは?
A:夷隅川自体が、今はほとんど砂を供給していない。

Q:見た目もよくない堤防よりも、人口リーフを作ったほうが良いのでは?
A:一宮〜太東海岸だけでも年間5〜6万立方メートルの砂が逃げているため、人口リーフにより侵食の速度は多少弱まるものの侵食は止まらない。また、貝を採っている漁業などとの兼ね合いや、予算面もあり難しい。

Q:堤防を横に入れない方法はないの?
A:なくなっていく一方である砂の出て行く速度が違うから、横に入れている。Tバーと似たような効果があり、予算的にも安い。また、砂の局所的な付き方がないはず。縦の堤防と横の堤防間の流れも出ないはず。
Q:いや、実際には非常に強い横への流れが出てしまっていますよ。
A:……それは知りませんでした。このような議論を尊びます。ありがとう。

Q:堤防を取り除くことはできないの?
A:補助金を国に返さなければいけない法律がある。県が払うお金がないし、現実的には厳しい。

Q:カリフォルニアのように、ピアにできないの? 砂も動くし、観光面でも効果があるはずでは?
A:今まで何度も現地を見に行ったことはあるものの、観光や海に携わる環境が日本と違う面は否めない。ただ、ピアにしたとしても、砂がなくなる一方の一宮エリアでは侵食は止まらない。

Q:町長にお聞きしたい。1万2000人余の人口の一宮町のキャッチフレーズが、「緑と海と太陽のまち」とありますが、日本の沿岸の町はみな緑も海も太陽もあります。プロサーフィンの世界選手権大会が何度も行われた一宮の波とサーフポイントこそ、この町の最大の売りではないのか? また、財務省はどこに逃げていくか分からない“砂”に貴重な税金は使えないと言ったそうだが、素晴らしい波があるからこそ、都内・茨城・神奈川からわざわざサーファーがやってきて、地元のコンビニ、食堂、宿にお金を落としている。良い波を残すための砂の補給に税金を使うことで、地元に経済的な効果が生まれ、雇用・住民増、また不動産の購入などに結びついているので、きちんと効果を伝えて欲しい。観光資源と同様に、波は貴重な財産なのです。
A:分かりました。今後の参考にさせて頂きます。

写真2
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その他、様々な議論が飛び交い、予定よりも1時間も延長されたのち、閉会となった。
この集いは、今までにない盛り上がりを見せ、2名の講師も議論することの意義を訴え続け、一宮エリアの抱えている末期ガンの状態という非常に厳しい現実、そして一宮だけでなく九十九里海岸全般、ならびに日本全国が抱えている海岸侵食問題を考えさせられる機会だった。

海の中を知っている人でなければ、海の中は分からない。家族が毎日体温を測っている患者さんと、たまに先生に診てもらう患者さんとの差と同様、海岸の季節に応じた写真やできれば日々の写真、海の移り変わりをデータとして欲しいとのことだ。

悲しい現実を踏まえつつ、サーファーとしての立場からだけでなく、サーファーだからこそ分かることも伝えて関係者と情報を共有し、今回のような集いや議論を継続して行うことが何よりも重要であることを、この集いを通して出席した全員が再認識することができた。

文責:サーフレジェンド角山


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