5月25日(金)〜27日(日)にかけて、三浦市にあるリビエラリゾートのひとつ、シーボニア・マリーナにて、第11回全日本ブラインドセーリング選手権大会が開催されました。
レースの様子【1】
このブラインドセーリングとは、まず、特別なヨットではなく、通常のヨットをそのまま使用します。また、ブラインドセーラー(視覚障碍者)が、ヘルム(舵)とメインセール(大きな方のセイル)のトリムを担当します。ヨットには、サイテッドセーラー(晴眼者)2名も同乗し、1名はヘルムスパーソンの眼の役割をして、風の方向や状況説明を行い(サイテッドスキッパー)、もう1名が小さい方のセイルを担当します(ジブシートトリマー)。
このヘルムスパーソンは、口頭でのアドバイスや指示はできますが、一切操船に関わることはできません。もし、それを行った場合には、当然ペナルティが課せられます。またジブシートトリマーも、ジブセイルのトリムのみが許され、それ以外は一切手出しはできません。ある意味、通常のヨットの操船よりも難しく、チームワークこそが勝敗を左右します。
さらには、レースとなると何があるかわかりません。特にスタートや、マーク回航の際には、ヨット同士がかなり接近し、ぶつかることもあり得ますし、危険な行為に至ってしまうことさえあります。
そういった際には、危険回避のときのみ、サイテッドセーラーは手を出すことはできますが、あくまでも危険回避の時だけです。それだけ、難しい競技と言えるでしょう。今回は、そうしたブラインドセーラーたちが全国から集まり、日ごろの成果を発揮すべく戦う、全日本選手権大会です。
今回の注目は、女性だけのなでしこチーム「makamaka」、そしてシーボニア・マリーナをホームとする「kiki」、さらには、浜名湖から参戦した「うみまる」と「浜名湖シラス」。ほかにも、各地から参加したチームが多数集まり全部で9艇でのレースとなりました。
25日(金)は、今回艇種となるJ-24というヨットを各地からシーボニア・マリーナへ運び、ヨットの検査、測定、参加選手の集合、艇長会議、開会式などが行われ、本レースは26日(土)〜27日(日)にかけて行われました。
レース初日となる26日(土)は、朝は雲が多かったものの、徐々に雲がとれ、レース開始となる午前9時30分ころにはすっかり晴れていました。また、風は北東寄りの風が2〜3m/s程度と、かなり弱めの風ではありましたが、ヨットのレースとしては成立するくらいの風が吹き、波もほとんど無く、まずまずのコンディションで始まりました。
陸上では、ブラインドの方も、サイテッド(晴眼者)の方も、明るく、参加選手同士で和気あいあいとしていたのに対し、海へ出る準備を始めると、みんな顔つきが変わり、真剣なレースモードとなっていました。
まずは午前中に2レースを消化。この2レースとも制したのはやはりここの海をホームとする「kiki」。さすがです。常に安定した走りを見せていました。でも、それを追うなでしこチームの「makamaka」、そして女性1名を含む「pineapple princess」。その後、ちょうど2レース目を終了した昼ごろにはいったん風が落ちつき、無風状態となり、しばしのウェイティング。ただし、その後には、予報どおり南寄りの風が吹き始め、レース再開。各チームは午後からの少し強めに吹く南寄りの風にうまく対応するために、ウェイティングの間に作戦を練り直していました。
午後も2レースを消化しましたが、最後には6〜8m/s程度まで上がり、かなり見ごたえのあるレースにもなり、初日は、微風から順風までのレースを観ることができました。午後の2レースは、なでしこチームの「makamaka」と、浜名湖から参戦した「うみまる」がそれぞれ1位をとりました。午前中に調子の良かった「kiki」は、少しチームワークが乱れたのか、それでも惜しくも2位と4位でした。この時点で暫定1位は「kiki」。あすの2日目の最終日には、必ず勝つつもりで臨んでくるでしょう。でも、2日目のレース次第では、まだまだわかりません。ほかのチームもかなりの気合いの入れようです。みんな夜のウェルカムパーティでは、顔では笑っていましたが、目の奥には秘めた闘志が燃えていたようにも見えました。
さて、2日目最終日の朝は、かなり天気は良いものの、ほぼ無風。スタート予定時刻ではウェイティングのフォーン。みんなリラックスしながら、風が上がるのを待っていました。その後、午前9時ころには、少しずつ南寄りの風が吹き始め、レースを行うフォーンが鳴ります。みんな各ヨットへ乗り込み、レース会場となる沖へ向かいました。
沖では、南寄りの風が吹いているものの強くはなく、1〜3m/s程度。また、台風2号からのうねりがしっかりと入っていました。でも、そうしたうねりは沖だとあまり気になりません。ヨットなら微風でも十分に走ります。その後、午前10時20分にレーススタート。
まず、調子良くスタートを切ったのはやはり「makamaka」。この日、第1レースを見事に制したのも「makamaka」。安定した強さで走っています。ただし、暫定1位の「kiki」もすぐ後を追って2位でフィニッシュ。第2レースでは、「makamaka」も「kiki」もあまり良いスタートを切れませんでした。でも、各マークを回るごとに順位を上げ、このレースを制したのは、やはり「makamaka」。そして2位が「kiki」。次の最終レースでは、「kiki」は絶対に「makamaka」には負けられません。そのころになると南寄りの風も少し強まりはじめ、3〜5m/s程度まで上がってきました。でも、ここにきて調子を上げてきた「pineapple princess」は勢いを増し、見事に1位でフィニッシュ。そして「makamaka」が2位、「kiki」は3位で終了。
ヨットレースでは、各レースの総合順位で争われます。最後までもつれたレースで、「makamaka」と「kiki」のデッドヒートは、見ている方としてはかなり興奮したレースでした。夕方に行われた表彰式で、各順位が発表されましたが、結局、今年の全日本レースを見事に制したのは、唯一なでしこチームの「makamaka」でした。「makamaka」には、J-24クラスでは全日本に出場するほどの腕前を持つ女性でありながらも今回はじめて乗ったという2名のサイテッドセーラー、そして、かなりの練習量をこなしてきたというブラインドセーラーのチームワークの勝利でした。2位は、惜しくも同点ながらもトップフィニッシュの回数で優勝を逃した「kiki」、そして3位は「pineapple princess」。この3チームは、実は来年行われる世界選手権の日本代表としての出場権を獲得しました。来年に向けて、さらに練習に励み、良い結果を期待しています。
優勝チーム「makamaka」
世界選手権・日本代表3チーム
来年もここシーボニア・マリーナにて世界選手権が行われますので、よろしければ観覧してみてはいかがでしょうか。このヨットレースは、関係者もみんな言っていましたが、まれにみる盛り上がり方だそうです。ブラインドの方も明るく元気で、こちらが圧倒されてしまうほどです。また、今回のレースには、TBS、そしてTV神奈川も取材に来ていて、来年の世界選手権に向けて注目度が上がってくること間違いないでしょう。
最後に、良いレースを観させていただきました選手の皆様、ならびに今回快く取材をさせていただきましたレース関係者の皆様、本当にお疲れ様です。そして、ありがとうございました。
◆最終総合成績
優勝:makamaka(3-0CS-1-3-1-1-2)
準優勝:kiki(1-1-2-4-2-2-3)
3位:pineapple princess(2-3-8-2-6-4-1)
4位:うみまる(6-6-3-1-8-3-4)
5位:エオリア(OCS-4-4-8-4-5-5)
6位:チャレンジ227(4-2-5-5-7-8-9)
7位:浜名湖シラス(8-5-6-DNS-3-6-8)
8位:アルバトロス(7-7-7-6-5-9-7)
9位:チーム阿羅漢(5-DNS-9-7-9-7-6)
小川予報士