サンゴの産卵について

図4

今年もサンゴ礁の一大イベントが始まろうとしています。

そう、サンゴの産卵です!

サンゴは刺胞動物に属する動物で(植物ではありません!)、クラゲやイソギンチャクの遠い仲間にあたります。
皆様がイメージする「サンゴ」は、石灰質の骨格を形成する「造礁サンゴ」と呼ばれるサンゴです。
サンゴの骨格は長年堆積していくことで複雑な地形を形成し、多様な生物を擁するサンゴ礁生態系を作り上げています。

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サンゴ礁生態系では、地球表面の約0.1%という小さな範囲に、約9万種の生物が生息していると推測されています。
生物多様性の観点からしても、サンゴ礁域がとても重要なエリアであることがわかります。

そんなサンゴ礁に、新たなサンゴたちが生まれようとしているのです。

多くのサンゴは毎年5月末~6月に産卵を行います(海水温や種の違いにより多少は変動します)。
なかでもミドリイシ属(Acropora)のサンゴは一斉産卵を行い、とても幻想的な光景が広がります。

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こちらがミドリイシ属のサンゴです。
この写真に写っているサンゴはほぼすべてがミドリイシ属で、枝状からテーブル状まで色々な形をしているのがわかります。

余談ですが、よく耳にする「テーブルサンゴ」は、ミドリイシ属でもテーブル状の群体を形成するものを指す言葉であり、
「テーブルサンゴ」という名前のサンゴがいるわけではありません。

話を産卵に戻しましょう。
サンゴはその塊で1つの個体ではなく、複数の「ポリプ」の集合体です。
したがって、「サンゴ1塊」のことは「サンゴ1群体」と表現します。
(※群体を形成しないサンゴもいますが、ここでは割愛します。)

サンゴに近づいてみると……。
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表面にたくさんの穴が開いているのがわかります。
この穴1つ1つにサンゴの「個体」がいるのです。

サンゴはこの個体1つ1つが卵を持ち産卵するため、あのような幻想的な産卵シーンとなるのです。

ちなみに、先ほどから「卵」と表現しているつぶつぶですが、正確には「卵」ではありません。
これは「バンドル」といい、中には卵と精子が入っています。

バンドルには油も含まれており、サンゴから放出されたバンドルは表層へと浮いていきます。
表層へとたどり着いたバンドルは波によって弾け、受精するという仕組みです。

受精卵は浮遊しながら拡散していき、やがて着底します。
着底後は分裂などを繰り返して大きく成長していきます(つまり、サンゴはクローンの集合体なのです)。

残念ながらほとんどのバンドルや受精卵は魚などに食べられてしまため、大きく育つものはほんの一握りですが……。

図1

サンゴの産卵は「大潮の満月の夜」、特に「満月の3日前から7日後の11日間」に起きやすいといわれています。
また、サンゴのポリプにバンドルが見えるようになると(これをバンドルセットといいます)、
その日の夜に産卵する可能性が非常に高いです。
ちなみに産卵中の海は独特な生臭さがあり、海に入らずともなんとなく産卵の有無がわかります。

今年は世の中の情勢がやや不安定ですので、見に行くぞ! とはいかないかもしれません。
見ることはできなくても、確実に新たな命が生まれてきます。

産卵が行われているであろう海中に、思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

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