『悲しい海のアクシデントを防ぐためにVol.3』

ネックダメージを防ぐ基本的な方法は、バランスを崩して頭部からボトムなどにヒットしそうになった場合に、頭を抱えて全体を丸めるという教えは有効です。しかし、不意に襲われるサーフボードやブームなどの頭部への強打や、他のサーファーやボードセーラーらと激しく衝突した際に、頭部を抱える余裕はないことが多いはずです。 また、大きなサイズの時で、水深の浅い干潮時にリーフやリバーマウスなどでサーフィンする時には、ベテランサーファーはライディングをフィニッシュした際にはアイランドプルアウト(ボトムターンから波の下にボードを沈めて波の裏側に逃げる上級テクニック)を試みるし、バランスを崩してワイプアウトする場合でも、飛び込む方向をコントロールしてから安全な方向、例えば波のショルダーなどに向かって飛び込んだりしてアクシデントの軽減を図っています。アクシデントを未然に防ぐことは重要ですが、もしも最悪のシーンに出くわしても、何とかかわすテクニックを日ごろから特別に練習したり、または先輩から教わっておくことはとても重要なことです。 私の高校時代、1年生男子は毎週1時間の柔道が必修でした。高校卒業後に、スケボーでダウンヒルを猛スピードでかっ飛んでいた時に、小さな小石がウィール(車輪)をブロックしてしまい、私の身体は完全に坂のボトムに向かって空中2mくらいの高さに飛び出したことがありました。見守っていた友人からは『危な〜い!!』と叫ぶ声……そして3秒後には……『カッコイイ! スッゲェじゃ〜ん!!』 私は空中に飛び出しながらも、無意識のうちにかつて習った柔道の前方回転を空中で整えつつ、回転しながら着地体制を確保して受け身を決めて、かすり傷もなく、完璧に立ちあがっていたのです。備えあれば憂いなしです。
‐————————————————————— バイクの交通事故や、ライフガード中にタワーから転落して脊髄を激しく痛めて障害者になってしまった方、また福島の波乗り大ちゃんのようにネックダメージが原因で亡くなってしまったサーファーらの事例を何件も知っています。そして、先月知ったある知人の家族に起こった痛ましい事故とその後の事実は大変ショックなことでした。 先にコラムに書いたスタンドアップサーフィンの視察目的で、マウイ島に行くために成田空港に向かおうとしていたところ、ある場所でバス停の椅子に座るかつての高校時代に大変お世話になったバレー部の恩師の姿を見かけました。『あっ、○○先生だ』……通り過ぎた後で気がついたのですが、飛行機の時間が迫っていたので後ろ髪を引かれながら車をUターンさせませんでした。 マウイにいる間もその事が心の負担になっていたので、お土産を買って、成田空港から直行で恩師の家を数十年ぶりに訪問することにしました。 既に教員を引退されていた恩師夫妻は突然の訪問に大変喜び、家の中からは恩師の娘さんが赤ちゃんを抱えて出てきました。『いやぁ○○子ちゃん久しぶり、お母さんになったんだね〜。おめでとうございます!』……すかさず恩師の奥さまが『それがおめでたくもないのよ〜』……私は何を言っているのか分からず、ポカーンとしてしまいました。 実は、娘さんの旦那さんは「波伝説」ユーザーのサーファーで、昨年9月にサーフィン中に脳梗塞(こうそく)を起こして溺れ、意識が戻るまでに回復はしたものの、その後に合併症を起こして、残念ながら今年2月に病院で亡くなっていたのです。しかもその後の4月には初めての赤ちゃん(女の子)が生まれたのです。あまりの突然の悲劇であり、恩師は我々に負担をかけまいと訃報など何も連絡してこなかったのです。 自分の子どもが生まれる前に、この世を去らねばならなかったご主人の心中を察すると、やるせない気持ちで一杯になりました。また高校時代のみならず、OBになってからも毎週金曜日のバレー部のOB会後に皆で恩師宅にお邪魔し、大変お世話になった恩師の、赤ん坊のころから知っている娘さんの家庭を壊したきっかけを作ってしまった当事者として、大変申し訳ない気持ちで言葉にも詰まりました。 先月末に、親しいバレー部OB仲間に声をかけて、我が家で娘さんと恩師夫妻のささやかな激励会をさせて頂きましたが、この事故を思い起こすたびに自分に何かお手伝いできることはないかと自問自答しています。あとで恩師に聞いた話ですが、マウイに行く前にバス停で見た恩師の姿は、実は別人だったそうです。きっと天国のご主人が我々を引き合わせたのだと確信しています。 海という素晴らしいフィールドで楽しませて頂いているサーフィンを含むマリンスポーツの愛好者の我々は、もしもアクシデントに見舞われれば、水の中で呼吸ができなくなるというリスクを抱えていることを、もう一度強く認識する必要があります。海に入る前のストレッチングをはじめ、事故防止を図るための行為や準備を、いま一度重要に考えられるよう強くお願いするものです。「今生きているってすごいことなのよ!!」 天国のご主人のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。(了)

最近の記事

関連する記事