2020年7月の台風発生数について

2020年は台風の発生数が少なく、7月の台風発生数は「0」個でした。
これは1951年の統計開始以来初の出来事です。

なぜこれほど台風が少なかったのでしょうか。

台風は、いきなり「台風」として発生するわけではありません。
「熱帯低気圧」が発達することで「台風」となります。

※「台風のタマゴ」という表現を聞いたことがある方が多いかと思いますが、これは多くの場合「熱帯低気圧」のことを指します

この熱帯低気圧(=台風のタマゴ)が発生するには、大規模な大気の流れが必要です。
具体的にどんな流れが必要か調べてみると、『台風についてわかっていることいないこと』という書籍にて、以下の様に説明がありました。

熱帯低気圧を発生させる大規模な流れにはだいたい決まったパターンがあることが知られており、古くから研究者(Ritchie and Holland 1999など)や、気象庁で毎日の予報業務をされている予報官(野中 2005)により認識されてきました。これまでのいくつかの研究結果をまとめると、北西太平洋における台風タマゴを生み出す流れは5パターンに分類されます。

著作権の関係上、5つのパターンを図を示して説明することはできませんが、ざっくり説明すると
A:北側で東風、南側で西風が吹いて反時計回りの渦ができる
B:東風と西風がぶつかって上昇流が生じる
C:季節風(モンスーン)が反時計回りに吹き、渦ができる
D:偏東風(貿易風)が蛇行して渦ができる
E:先にできていた台風が作り出す渦に伴って渦ができる
以上の5パターンが熱帯低気圧を作り出す要因だそうです。

ここで大切なのは
・反時計回りの渦を作り出す大気の流れ(上記でいうA、C、D、E)
・上昇流を作り出す大気の流れ(異なる風向の風がぶつかり合い、上記でいうB)

という2つの要素です。

なお、気象の世界では
・「反時計回りの渦」のことを「低気圧性循環」
・「異なる風向の風のぶつかり合い」のことを「(水平風の)収束」
といいます。

lalogl_mon_hist_z850_202007

(気象庁HPより)

こちらは2020年7月の、大気下層である上空約1500mの風ベクトルを図示したものです。
矢印は月平均の風向を示しています。
上記の5パターンの大気の流れは不明瞭で、低気圧性循環や収束ははっきりと見て取れません。
すなわち、熱帯低気圧ができにくい大気の流れであったことが推測されます。

lalogl_mon_hist_z850_201807

こちらは2018年7月の、大気下層である上空約1500mの風ベクトルを図示したものです。
7月に5個の台風が発生した2018年は、風の収束や低気圧性循環ができやすい大気の流れであったことが見て取れます。

続いて、上昇流と密接に結びつく、収束について見ていきましょう。

lalogl_mon_hist_chi850_202007

(気象庁HPより)

こちらの図は同じく大気下層の上空約1500mにおける、月平均の収束・発散の強さを示したものです。

・寒色で示された領域 → 平年よりも発散が強く、収束が弱い領域
・暖色で示された領域 → 平年よりも収束が強く、発散が弱い領域
を示しています。

「収束≒上昇流」、「発散≒下降流」とみなすことができます(※)ので、次のように言い換えることができます。
(※)厳密には違いますが、大気下層の収束・発散は上昇流・下降流と密接に結びついているため、ここではほぼ同じものとして扱います

・寒色で示された領域≒下降流が卓越した領域
・暖色で示された領域≒上昇流が卓越した領域

これを踏まえて先ほどの図を見てみると、日本の南の海上は青い領域が広がり、上昇流が励起されにくい状況であったことが推測されます。



7月末までに4個(平均は7.7個)しか台風が発生しなかった2016年の7月の図を見てみると
lalogl_mon_hist_chi850_201607

(気象庁HPより)

日本の南の海上は青い領域が広がり、今年と同じような傾向が見られます。

これらのことから、
・「低気圧性循環を作り出す大規模な大気の流れ」のパターンが不明瞭であった
・加えて、上昇流が発生しにくい状況であった

ことが、台風発生数が「0」となった原因ではないかと思われます。


「7月に台風が発生しなかった → 8月以降は凄まじい台風が接近する」……とは考えにくいですが、「7月に台風が発生しなかった」こと自体が異例であることに間違いありません。
九州を中心に「数十年に一度」とされる特別警報の発表が相次いだことなども踏まえると、2020年は例年と同様に考えることは禁物なのかもしれません。

「かつて経験したことのない災害」が発生した際に慌てずに行動できるよう、事前の準備や話し合いをしっかり行いましょう。
また、常に最新情報をチェックし、例年以上に気を引き締めていくことが大切になります。

文責:株式会社サーフレジェンド 気象予報士 塚本 陸


出典

・気象庁 HP
・筆保弘徳編著 (2018) 『台風についてわかっていることいないこと』 ベレ出版.

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